最近ホラー小説に凝っていて、『kindle unlimited』で色々漁ってみているのですが、
『ダ・ヴィンチ 2020年9月号』で紹介されていたので、読んでみました。
端的に言って、めちゃくちゃ面白かったです。
ホラーとかオカルトに興味があって、そういう物語を読みたい、という方は是非読んでみてください。
感想を一言で述べると、「読者との距離感が絶妙な物語」と言ったところでしょうか。
本書は、出版社から怪談特集用の短編の執筆依頼を受けた主人公が、自身の経験した怪異を小説として発表するところから物語が始まります。
その後は、主人公の書いた怪異を見た人から聞いた話を、主人公が小説として組み上げている、というもので、あたかも、本作の原作者さんの視点において、実話形式で物語が展開していきます。
出てくる固有名詞も現実のものと同一であったりし、読んでいると「あれ、これはもしかして実話なのかな?」と思わせてくる術は、まさに芸術的でした。
そしてラスト。この小説を読んでしまったことで、読者にも怪異が降りかかってしまう恐れがある、というような展開。すべては初めから繋がっていた――?
終盤付近では、もう読んでいるこちら側とすると本当の話なのか作り話なのかの線引きができなくなってしまっているので、非常にハラハラドキドキしました。
まるで、『火のないところに煙は』はフィクションであるような書き方をしてしまいましたが、もしかしたら、これは現実に起きている話なのかもしれません。
非常に強力な没入感を味わうことのできる『火のないところに煙は』。
文章も流麗で、すらすらと頭に入ってきました。リズムが良い、という奴でしょうか。その技術もまた、本書に意識が埋没していく理由の一つなのかもしれません。
是非とも一読をオススメします。