最近はこういった、イラストが表紙を飾っている小説が多いですね。
『君の膵臓をたべたい』あたりから、この手の表紙の悲哀ものが増えた気がします。
読んでみましたが、正直、微妙でした。
簡単なあらすじ
高校で友達もろくにいない主人公が、成仏できない幽霊である女子高生に出会い、彼女に「私を消してください」と頼まれ、どうのこうのする、という話です。
詳しくは以下を参照してください。

純文学っぽい内容
素直な感想ですが「話が無いな」という印象を受けました。
主人公が女子高生の幽霊と出会い、その幽霊に「私を消してください」と頼まれるところから始まるのですが、特に話の起伏もなく、オチも微妙。消化不良な感じ。
じっくり腰を据えて読んだわけではないので、僕が重要な一文や表現を見落としており、この小説の骨子が捉えられていないだけ、ということも十分あり得ますが、裏を返せば、全体をざっと読んだくらいでは、話の内容がわからない、ということになります。
主人公が幽霊と出会ってから、彼女を消すために何かに奮闘した、ということもないし、彼女との出会いが主人公の世界をがらりと変えた、ということもない。恋愛感情が明確に生まれるわけでもない。ジャンルとしては青春小説なのかもしれませんが、個人的には純文学っぽい印象を受けました。
主人公の心象を描くことに重きを置き、話の流れ自体はただの付帯でしかない、という感じです。
主人公と幽霊である彼女の、起伏のある物語を期待していたので、ちょっとした肩透かしを食らった気分でした。
情景描写はとても巧みだけど、それが話にリンクしない
情景描写が非常にきめ細かく、そして綺麗。作者の方の筆力の素晴らしさは、地の文を少し読んだくらいでもわかると思います。それほど、風景などの描写の完成度は高かったです。
ですが、その卓越した風景描写が、物語の中でどこか上滑りしてる印象を受けました。
主人公の一人称で話が展開されていくのですが、割と鬱屈した感情を抱いている主人公の目を通しての描写にも関わらず、世界が綺麗すぎる。
一人称なのだから、主人公の感情をもっと含んだ風景描写で良かったんじゃないかなぁ、と思いました。
ただ、ヒロインである幽霊はどんな変哲もない風景にも輝きを見つけるのが得意、という設定があるので、主人公もそれに引っ張られる形で世界を切り取っている、ということなのかもしれません。
繰り返しになりますが、風景描写は本当に綺麗で素晴らしかったです。
主人公の父親の話が泣ける
主人公の母親はすでに亡くなっており、主人公は父親と二人暮らしをしております。
母親の葬儀のときの回想があるのですが、そのときの父親の、母親に対する接し方が、個人的にはこの作品で一番ぐっときました。
綺麗な表現を使う作者さんの持ち味が存分に生かされていたと感じます。
本作は主人公が感情を押し殺すように生きていく理由と、幽霊少女の生前の境遇、その両方が暗めの設定です。
作者さんの筆力ならを生かすなら、もっと設定の暗さに頼らず、人間描写の中で、ほのかな切なさを感じさせるような作品を書き上げることができると思うので、次回はそういう作品を期待したいと思います。
まとめ
本作については、個人的にあまり良い感想を抱けませんでしたが、作者さんの類稀なる筆力には惹かれるものがあったので、是非ほかの作品も読んでみたいなぁ、と思いました。
『消えてください』はどうやら作者さんの二作目のようで、デビュー作は『ひきこもりの弟だった』という、第23回電撃小説大賞《選考委員奨励賞》受賞とのこと。
『消えてください』と同じく、ダークな話のようですね……。
近々、こっちも読んでみたいと思います。
興味のある方は是非。