電撃文庫の新刊を漁っていて見つけたこの作品。
いやあ、ひでえもんでした。
簡単なあらすじ
錬金術師と吸血鬼が昔から当然のように存在するお話です。
なお、この作品の錬金術はなんでもありなので、「等価交換」の概念はありません。
舞台は東京。世界観設定は現実の日本とほぼほぼ同等。
人間と吸血鬼の混血種(ハーフ)というのがいるのですが、それが何らかの原因により、『クルーエル(残酷)』と呼ばれる化け物に成り果て、人々を襲います。
クルーエルから人々を守るため、錬金術師で構成された『薔薇十字団』という組織が存在し、ハギオ(主人公)はその団に所属するため、錬金術師の養成校である『錬金術師養成学校(アルケミスト・アカデミー』――通称アルガクに通っています。
ハギオの目的は「気が済むまでクールエルを殺す」こと。
詳しくは以下を参照してください。

文章構成が杜撰
感想です。
まずは小説としての出来栄えから。
視点が変わりすぎて読みにくい
まず一つ目。視点がころころと変わって非常に見にくい。
本作は三人称視点で描かれているのですが、誰かの心情を描写していたと思ったら、場面の切り替えを行うこともなく、その場にいるほかのキャラクターに視線が移る。これが多すぎる。
三人称であっても、場面転換等を挟まない限り、特定の一人を追跡するように描写するのが三人称の大原則だと思いますが、それを一切守っていない。
ようは、漫画やアニメのような書き方をしておりました。
主人公がこう思って、敵はこんなことを考えていて、そのふたりれを見ていた奴はこう思っている、的な。
ただ、これについては作者さんに何らかの意図があるのかもしれませんが。
小説の技法は基本が決まっているだけであって、そこからはみ出したらすぐに破綻する、というものでもありませんし、そこに個性が表れるものでもあります。
ですが、正直な感想として、作者さんの技量はそのレベルに達していなかったと思います。
これがアニメの台本やマンガのネームなら問題ないのかもしれませんが、小説としては最悪です。
無駄な行間。そしてすぐに回想に頼る
場面転換で行間を空けたりするのはよくある小説の技法ですが、この作品の行間空けにはどんな意図があるのか不明でした。
場面が変わるわけでも、話のまとまりが終わったわけでもない。
作者さん的には話のひとまとまりの区切り、という判断なのかもしれませんが……。
効果的な使い方をしている場面が非常に少なったと思います。
あと、回想が頻発。
話の流れをスムーズにするためなど、効果的に使えていれば良いのですが、これもダメ。
ただただ、作者さんが都合よく話を書くために回想に頼っている、という印象。
キャラクターたちの会話で過去の話をするなど、物語を読んでいく中で、登場人物たちのやり取りの中で、細かなディテールが露になっていく、というのが綺麗な小説の形だと(個人的に)思うので、その点でもがっかりさせられました。
謎の固有名詞
錬金術師と吸血鬼、それから混血種など、現実には存在しないものが沢山登場する本作。
舞台設定が現実の日本と同じように発展している日本、というのも多少気になる点ではありますが、そこに目をつむるとしても、『ディズニーランド』や『ドン・キホーテ』という、現実にある固有名詞が登場してくるのはどうなんでしょうか……。
かと思えば、『夜牛家』という現実にはない牛丼チェーン店が存在したり。
ちぐはぐ感がいなめませんでした。
(ただ、『夜牛家』は日光を与えないで育てた引きこもり和牛しか使わないというこだわりが名前の由来、というのは面白かったです)
ストーリーがびっくりするほどつまらない
次は、ストーリーについてです。これも酷い。
序盤に垂れ流される世界観設定。そのくせガバガバ。
序盤数ページに渡り、ただただ世界観設定について述べるだけ部分があります。
ファンタジー作品なので、読者に伝えなければならない情報が多いのは分かりますが、それは物語を進める中でやってくれよ、と。
正直、立ち読みする人ならこの時点で本を閉じていると思います。
また、設定はガバガバです。
いくつかあげると、
- 混血種はクルーエルになり人間を襲う可能性を秘めているが、平然と人間と共存している。何か法的規制が行われていたり、一部地域では迫害の対象だったりしないのか
- 純血種は混血種に比べ、血への渇望が強く、身体能力も並じゃないため「警察及びこれに準ずる機関が無条件に拘束・監禁してよい」という設定だが、登場してくるヒロインの純血種は血への渇望がないようだが……(見落としかもしれませんが)。
- 『薔薇十字団』は区画ごとに七人編成。渋谷区にも七人しかいない。少なくすぎないか。
という感じです。
僕の読み込みと読解力に問題があるのかもしれませんが、全体的に、細かいことまで考えてないなぁ、と思いました。
話に無駄が多すぎる
とりあえず、これが本作の根幹なのかな、という話はあるのですが、それを際立たせるための小話というのが少ない。
ほとんどが枝葉末節というか、はっきり言って無駄な話です。
何かが何かの伏線になっている、ということもほとんどないし、その小話から主人公の背景、その他の登場人物の魅力が開示されていく、ということもない。
出発と終点だけ決めて、とりあえずあとは小説としての体裁を取るための文章量を確保しただけ、という印象です。
必要性が感じられない登場人物たち
キャラクターが全然生かされていませんでした。
というか、正直いらないキャラクターばかり。
『薔薇十字団』 のキャラクターは七人くらい出てくるのですが、これは絶対にこんなに登場させる必要がない。1巻の段階で無駄に死ぬのもいるし。
また、 『薔薇十字団』 ではない別の組織が二つ出てきます。そのうちの一つは今回のストーリー的に必要な組織及び登場人物だとは思うのですが、大した活躍もせず、すぐに退場。
『薔薇十字団』 の面子に文章を割くぐらいなら、そっちをばっさり切り捨てて、必要な登場人物にページを割り当てるべきだと思いました。
まとめ
はっきり言って駄作です。
文章力に目を瞠るものがあるわけでもなければ、設定が凝っていて引き込まれるわけでもない。登場人物にも大した魅力はないし、ストーリーも面白くない。タイトルもちょっとよくわからない。
良いところとすれば、錬金術についての設定くらいでしょうか。
多少乱暴なところはあったと思いますが、この錬金術設定は更に練れば非常に面白いものになると思います。特に『隣接性』に基づいての錬成という着想は良かったです。本作においてのその用途が良かったかはあえて言いませんが。
全体的に酷い部分が多すぎて、きっとほかにもあったであろう良かった部分が霞んでしまっているので、なんというか、まあ、非常に惜しい作品でした。がっかりと言っても過言ではありません。
正直、二巻を買う気はあまりないのですが、わずかばかりの希望を込めて、次巻までは読んでみようと思います。
良い意味で、期待を裏切られることを願ってやみません。
コメント
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